10年間ダーハー(右)をささえてきたレイレイは別れようかと思い悩む (C)2017 52HzProduction ALL RIGHTS RESERVED.

先日、インスタグラムに投稿するため見ず知らずのアルバイトの人と“友達レンタル”契約して撮影する人や若い人とのカラオケを月一度の息抜きにしている人など、都会に暮らす人の希薄な人間関係、孤独な心の一面をルポするニュース番組がTV放送された。本作のタイトルにつけられた“52Hz(ヘルツ)”とは、あるクジラが発する音の周波数のことで、ほかのクジラが発する周波数とは異なるため仲間同士との交信ができずただひとり大海原を彷徨う孤独なクジラを指している。世代、性別、職業にかかわらず都会の孤独のなかで、どのようにしたら本当の愛情に触れる出会いとパートナーを見つけることができるのだろうか。ウェイ・ダーション監督は、バレンタインデーの一日の出来事を舞台にラブソングを綴るミュージカルですべての人たちに幸せへのエールを送っている。

【あらすじ】
台北、バレンタインデーの朝。シャオシン(ジョン・ジェンイン=シャオチョウ=)は、叔母(シンディ・チャオ)が経営する花屋を手伝いで朝の仕入れから忙しい。ポロポーズのために花束を買いに来る人たちの華やいだ雰囲気に触れながらアラサーのシャオシンは恋人がいない寂しさを押し隠す。パン職人のシャオヤン(リン・ジョンユ―=シャオユー=)は、特別注文のバラのチョコレートを作る。注文主は、密かに想いを寄せるレイレイ(チェン・メイフイ=ミッフィー=)からだが、彼女が恋人のダーハー(スミン)贈るためのものだと知っている。花束とチョコレート、幸せのプレゼントを届けるのに忙しいシャオシンとシャオヤンが、出会い頭に交通事故を起こす。シャオシンの車が動かなくなったため、口論の末にシャオヤンのバイクで両方の注文先に配達することになった。

シャオヤンの片思いの相手レイレイは公務員。売れない作曲家の恋人ダーハーを応援しながら、10年間生活を支えてきた。さすがに永い春のバレンタインデーを複雑な思いで迎えていた。そんなレイレイの複雑な想いに気づかないダーハーは、浮かれた気分でレイレイに贈る花束を買いに行く。

市が主催する合同結婚式の仕事で忙しいレイレイ。応募してきたカップルが、幸せそうに集まってきた。その中に、同性愛カップルのメイメイ(リー・チェンナン)とチーチー(チャン・ロンロン)が、なんとか結婚式を挙げてもらおうとやってきた。ピュアに愛し合っていることを表現するメイメイとチーチー。レイレイは、ダーハーからレストランでの夜食に招待されているのだが、彼と別れようかと悩み揺れている。だが、ダーハーは応募していた国際的な音楽賞を受賞し賞金を獲得した。レスたランでレイレイに発表して喜ばせ、プロポーズするためバンド演奏の準備までしていたがすれ違っている二人の心はもう一度重なり合えるのだろうか…。

お互いに恋人のいないシャオシン(左)とシャオヤン (C)2017 52HzProduction ALL RIGHTS RESERVED.

【見どころ・エピソード】
ポップな17曲のラブソングはすべてオリジナル曲で、台湾のポップ・ミュージックシーンが愉しめる。宇宙人 (Cosmos People)の作詞作曲、ボーカル&キーボード担当のシャオユー、ソロミュージシャンのシャオチョウ、トーテム(圖騰樂團)のメインボーカルのスミン、バンド小男孩樂團リードボーカルのミッフィーら物語の中心4人のミュージシャンたち。加えてダーション監督の出世作「海角七号 君想う、国境の南」に出演したファン・イーチェン、マー・ニエンシェン、イン・ウェイミン、ミンションたちがダーハーを応援するバンドのメンバーで登場し、ヒロイン役だった田中千絵もレストランのチーフ役で出演している。また、日本が統治していた時代の原住民蜂起を描いた「セデック・バレ」で主役を演じた主題歌を吹き込んでいた牧師が本業のリン・チンタイも素晴らしい歌声を聞かせてくれる。ウェイ・ダーション監督のファミリーチーム総出演を感じさせる圧巻なキャスティングも見どころな作品。 【遠山清一】

監督:ウェイ・ダーション(魏徳聖) 2017年/台湾/109分/英題:52Hz, I Love You 配給:太秦 2017年12月16日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開。
公式サイト http://www.52hz.jp
Facebook https://www.facebook.com/52hznolovesong/